【古雅楽館】 アズナブール

 

シャンソン歌手にして俳優のシャルル・アズナブール(以下、人名敬称略)が今月1日に亡くなった。古雅楽館にとって身近な男性シャンソン歌手は、これでアダモだけになってしまったが、彼も体調不良から音楽活動は休止しており、一つの時代が終わったかと思うと寂しい限りである。

 

古雅楽館がシャンソンを知ったのはかなり早く、母親が高英男のファンだったこともあって、毎日のようにレコードを聴いていたから、小学5~6年の頃はうろ覚えながら『枯葉』は知っていたし『雪の降る街を』はちゃんと歌えた。《私的 暮らしと明かりⅠ》にも書いた高度成長期の時代、テレビの普及と共に様々な洋楽の(日本人)歌手が次々とブラウン管に登場し、一種のブームになった時期がある。今でいう「オールディーズ」が最もポピュラーで歌手も多かったが、それ以外にもC&W、ロシア民謡、(アルゼンチン)タンゴ、そしてシャンソがお茶の間を賑わした。

 

ただ子供心にもシャンソン(又はその愛好者)はキザと言うか、『ディレッタント』なイメージが漂い、なんか「シャンソンが趣味です」と言うのが上から目線のハイソ感がありありで、決して馴染める音楽ではなかった。それからしばらくして高校生になった頃、これまでとはテイストが違う新たなシャンソンブームが日本でも沸き起こり、漸く一般にも抵抗なく受け入れられるようになった。その担い手となったのがアダモとアズナブールである。

 

アダモが『雪が降る』や『インシャラ―』等の、どちらかと言えば誰にも受け入れやすい曲をヒットさせたのに対し、アズナブールは殆どが「愛」をテーマにした曲ばかりだから、男性には多少面映(おもは)ゆいところもあって、逆に若い女性が夢中になった所以(ゆえん)でもある

 

それを端的に表現したのが、由紀さおりの名曲『恋文』だろう。冒頭の「アズナブール 流しながら・・・」に続く極めて古風、且つたおやかな歌詞のイメージは、当時既に失われた控えめで淑(しと)やかな「大和撫子」への憧れを抱かせるのに十分だったし、アズナブールという「人」以外には考えられない程しっくりくるものだった。

 

他に古雅楽館の「アズナブール繋がり」はもう一つある。彼の曲は日本も含め世界各国の歌手が好んでカバーを出しているが、余多(あまた)ある中でジャック・ジョーンズのバージョンが古雅楽館としては一番に推す。と言うのもジャックは尊敬と感謝を込めてアズナブールに捧げたディスク『Write Me a Love Song、 Charlie』(LP)を1974年に発表しているが、これがまた非常に素晴らしい。御本家とは別な世界の完全に自分仕様の曲とし、こなれた英訳と上品で華麗な歌唱が見事なまでにマッチ。レコーディング当時36歳だから、歌手として脂の乗り切った時期の作品ということもあり、収録された曲いずれもが非の打ちどころのない、珠玉の作品に仕上がった。新聞の新譜レコード紹介でも評価が高かったので古雅楽館は即買いしたが、これが大正解。聴くほどに惚れ惚れする曲は、最もお気に入りの一枚になった。これがジャック・ジョーンズのファンになった馴初(なれそ)めだが、その続きはまたいつか書く。

 

 

【写真】日本では『帰り来ぬ青春』のタイトルで発売されたLPとCD。熱心なオーディオ(音楽)ファンは気に入ったレコードを、大抵2枚購入するのが習わしなのだ。

 

アズナブールのレコードも数枚持っていたけれど東京へ転勤の折、友人にプレゼントしてその後はCDが出ても買わなかった。ただジャック・ジョーンズは処分するには余りにも勿体なかったので、他の何枚かのレコードと一緒に自宅の押し入れへ厳重に保管し、二十年ぶりにオーディオシステムを再構築した際、このLPを真っ先に視聴している。その後、既に絶盤となったCDと、同じLP二枚目を探し出して手に入れたが、両者を比較するとやはりアナログの方がしっくりとくる。古雅楽館はこのディスクをリファレンスというよりは、オーディオを楽しんだ最後の締めくくりとして聴く。この十日間、アズナブールを偲んで毎晩のようにディスクを回しているが、古雅楽館流のちょっと捻(ひね)った哀悼(あいとう)の作法である。

 

謹んでご冥福をお祈りいたします。

 

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1.こう ひでお (1918~2009) 歌手・俳優としてシャンソンを日本で普及させた第一人者。戦後間もなくフランスと何度も往来し、今ではシャンソンの代表作品となっている、『枯葉』、『愛の賛歌』、『セ・シ・ボン』等を日本で初めて紹介、レコードに吹き込んだ。『雪の降る町を』はNHKラジオのドラマ挿入歌だったものを、更にワンコーラス追加し1952年レコード化、当時歌謡曲や演歌が主流の日本歌謡のなかで、じわじわとヒットした。作詞:内村直也、作曲:中田義直という豪華陣容で、中田はわざわざ高英男を指名したという。

 

2.Country & Western  = カントリー・アンド・ウエスタン。アメリカ・ポピュラー音楽、白人労働者階級のフォークミュージックが起源とされ、『マウンテン・ミュージック』、『アパラチアン・ミュージック』等、様々な呼称を経て、現在は『カントリー・ミュージック』と呼ぶのが一般化している。当時の日本歌手ではジミー・時田、小坂一也が代表的。

 

3.例えば、ダークダックス。

 

4.例えば、藤沢嵐子。古雅楽館の世代ですら、ダークダックスはまだしも、藤沢嵐子を知っている方は余程の音楽通以外、レアだろう。「紅白」にも5回出場しているのですよ。

 

5.dilettante (イタリア語) = 好事家(こうずか)。学問や芸術を趣味としてする人。しばしばプロはだしの知識を持つので、『オタク』もそのジャンルだと思うが、一般にはあまり良い印象がなく、生半可な知識をひけらかす人を蔑視(べっし)して言うことが多い。

 

6.作詞:吉田旺(よしだ おう)、作曲:佐藤勝。1973年、第15回日本レコード大賞『最優秀歌唱賞』を受賞、同年の「紅白」でもこの曲が唄われている。

 

7.態度や性質がしとやかで上品な様子。

 

8.(男から見た)日本女性の理想像を指すことが多い。決して出しゃばらず、陰で夫を支え、愛し尊敬していて貞淑・清純・勤勉・品があり・料理が上手。今時こんな条件を女性に向かって口に出したら、総スカンを食らう事間違いない。

 

9.直訳すれば「チャーリー、僕にラブソングを書いて」だが、チャーリーとはフランス語『シャルル(=Charles)』の英語読みである。

 

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番外篇につきトップ写真はありません。《PNG》続編は次回に廻します。

 

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