【古雅楽館】 八代貝

 

 

古雅楽館がこれまで紹介してきた「海産物」は『ストーンクラブ』を除き、全て西多賀にある行きつけの「魚屋さん」で買ったものばかりである。宮城県をはじめとする東北各地の漁市場からアタマのついた丸ごとの魚がゴッソリ入って来るので、(いわし)や鯵(あじ)、鯖(さば)といった定番から穴子、鮎並(あいなめ)等の近海物は勿論、築地や料亭に行くにはサイズが小ぶりで撥(は)ねられた「高級魚」も時には入荷する。勿論、鮪(まぐろ)や鮭、鰤(ぶり)等の切身も豊富だ。産地から直に入って来たのを出来るだけ早く並べるので、魚の名前は省略されて値段しかついていない物も多く、いささかとっつきにくいが、「魚食い」には堪りません。わざわざ遠くから、居酒屋のマスターをはじめとするプロの方もよく来店して「トロ箱」一杯買って行く。

 

更に見逃せないのが扱っている「貝類」の多さ。二枚貝の浅利、蛤(はまぐり)、帆立、蜆(しじみ)はほぼ年中、巻貝は最低でも三種類は揃っている。この他季節毎の牡蠣(かき)や鮑(あわび)、この前紹介した『あわびつぶ』等の新顔も加わるから、(予算さえあれば)「貝尽し」の料理も満喫出来る。

 

もう一つ、「魚食い」を唸(うな)らせるのがレア物のサプライズ商品を見つけた時だ。デパートや大手スーパーでもお目にかかれないような珍品が、ケースの隅にさり気なく置かれていたりする。以前書いた『トクビレ』の他にも『シイラ』、『的鯛(まとうだい)』、『メジナ』といったサカナの種類と試行錯誤で覚えた調理法は沢山あって、ありがたいことこの上ない

 

 

 

【写真上左】形や色がキレイなので、味とは別に「見た目の良さ」から市場では高値で取引されることもあるとか。【写真上右】ひっくり返すと巻貝に付き物の「フタ」がない。

 

「貝」だと最近の収穫は『八代貝(やつしろがい)である。産地以外、殆ど知られていない貝なので、もし知っているとしたら余程の『通』だと断言できる。古雅楽館にとっても3・11以降初めての見参だ。名前は九州「八代海」で沢山採れたからという。北海道以南、水深10m以下の砂泥に生息し、一部の巻貝と同じくヒトデなどを餌とする「肉食性」であるが、その割には『唾液腺』は目立たたない。成体で直径が約10cmのボール状になり、巻貝特有の「蓋(ふた)がないので「足」の表面が黒くて硬い。この貝は養殖されておらず、『刺網漁』で他の魚貝類と一緒に混ざって捕獲されるため、量にバラツキがあるのと↑先述したように知名度が低く、嗜好品(しこうひん)的な食材だから、消費されるのは殆どが地元である。なので、今回も店に並んでいたのは2個入りでふたパックのみ。勿論、古雅楽館はデカイ方を買いましたが、それでも250円位だったと思う。

 

 

 

【写真上左】他の巻貝と同じく、塩水から茹で上げる。【写真上右】茹でて身を出したところ。向こうがワタで、見るからにおいしくなさそう。さすがの古雅楽館も捨てるしかなかった。

 

食べ方は普通の「つぶ貝」と同じ。刺身も可能だが時節柄、下拵(したごしら)えは一般的な「塩茹で」にする。他の「ツブ」とは異なり、「ワタ」は食べないので「むき身」はガラの割に少なめ。茹で上げた「足」を切り分け、試しに醤油と山葵(わさび)で食べてみたがいまいち旨味に乏しい。よって、ここでは炒め物の具材と割り切り、夏野菜(今回はハナニラ・コリンキー・ズッキーニ・レッドパプリカ)と一緒にソテーにした。既に茹でてあるから最初から投入すると身が固くなるので、仕上げの直前にさっと混ぜ合わせるだけ。

 

素材が淡泊なだけに、味付けは個性的な材料でメリハリをつけるのが古雅楽館流。炒める油は『サンフラワーオイル+ピーナッツオイル』、調味料は『アンチョビソース』、『アップル+バルサミコビネガー10』、『ナンプラー』、それと『ムエルテ11』(デスソース)で辛味のアクセントをつける。

 

 

 

【写真上左】基本は「野菜炒め」。調味料を順次加えながらソテーすると、何やら「ケイジャン風」に仕上って、御飯にも相性よろし。【写真上右】炒め油のメインは開業200年以上の伝統を誇る、イタリアの老舗食用油メーカー「ズッキ」の『サンフラワーオイル』(右)を使用。更に、本社がスエーデンで工場が英国にあるグローバル企業「AAA(=オーフス・カールスハムン)」製のブランド品『ピュア・ピーナッツオイル』を添加(左)。

 

我流レシピは大正解、大変美味しくいただきました。「弁当のおかずにも」と思いましたが、パスタのトッピングにチャレンジ(因みに古雅楽館の弁当、最低でも週二回はパスタランチなのだ)。選んだのはショートパスタの『コンキリエ12』。半ば冗談交じりに「貝合わせ」を楽しむ。

 

 

会社にこんな弁当を持ってくる人はいないでしょうが、古雅楽館にとっては「昼ごはんが待ち遠しい」。たとえ自己満足に過ぎなくても、小さな試みの一つ一つが日々の生活をバラエティ豊かにし、エンジョイさせる手法だと思っている。特に古雅楽館のような「年寄り」には、マトモな食事をとれるのもあとわずかなので尚更(なおさら)だ。

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1.海産物を入れる(大半が)発泡スチロール製の「箱」。(底引き網)トロール漁で漁獲した大量の魚を入れる箱が名前の由来。

 

2.全国各地で獲れる大型の魚で、値段が安いため様々な料理法があるものの市場評価が低く、あまり流通していない。ハワイでは『マヒマヒ』の名で高級魚として扱われ、ソテーやフライは名物料理のひとつ。意外でしょうが、気仙沼市は『シイラ』の水揚げ量全国一位である。

 

  

 

【写真上左】体長40cm強の『シイラ』と【写真上右】『メジナ』。どちらも庶民向けの値段だが、一匹売りだから買うにはそれなりの覚悟が必要。

 

3.世界各地で食用にされる「白身魚」。フレンチのポワソン(Poissons=魚料理)では『舌平目』と共にムニエルの定番料理で、国内では日本海側でよく食されるという。詳しくはその内一項を設けるつもり。

 

4.全国の沿海漁業で獲れるが、水揚げされた地域で食されるため流通範囲は狭い。ただ釣り仲間では「磯釣り魚」として人気が高い。こちらも改めて近日公開予定。

 

5.肉食性巻貝特有の(内蔵)部位で貝毒『テトラミン』を含む。種類や大きさにより毒の強さは異なるが、「物が二重に見える」視覚異常が特長で、他にも頭痛・吐気・目まい等を伴う。熱に強く、茹でても毒性は失われないので、調理の際は完全に除去する必要がある。【古雅楽館】《あわびつぶ》も参照。

 

6.魚類が群れを成して遊泳・通過する海中へバリケードのように網を張り、網目に突進してきた魚の頭が突き刺さって抜けなくなるのを利用した漁法。対象となる魚の種類により、網全体の大きさ、網目のサイズ、網糸の張力は厳密に規定されている。海底に棲(す)むエビやカニを捕獲する際は錨で海底に固定・設置する『底刺網』漁法が用いられ、『八代貝』も(恐らく)これの副産物だと思われる。

 

7.【古雅楽館】《コリンキー》参照。

 

8.ヒマワリの種を圧搾(あっさく)して得られ、食用油としてよりも以前から「美容」面での効果が隠れたブームになっていた。『スキンケアオイル』、『マッサージオイル』、アロマテラピーの『キャリアオイル』など用途が広い。【古雅楽館】《ぺカン》にも書いた『オレイン酸』が豊富に含まれているので、加熱しても有効成分が失われない。

 

9.こちらもピーナッツを圧搾して精製される植物油で、『オレイン酸』、『ビタミンE』の多さは『サンフラワーオイル』や『オリーブオイル』と同様である。植物性オイルの中では高温に一番強いといわれ(限界温度220℃)、揚げ物に最適。ただ『ピーナッツアレルギー』には注意を払う必要がある。

 

10.『アップルビネガー』は早い話が「リンゴ酢」だが、ここで使用したのは濃縮・熟成させた、濃厚なリンゴの風味をもつ特製品で、『樽熟バルサミィアップル』の名で市販されている。方や『バルサミコビネガー』は今日日(きょうび)トレンディなイタリア料理に欠かせない調味料の一つになった感がある、長期熟成させたブドウの濃縮果汁。古雅楽館はどちらもサラダのみならず、様々な料理の隠し味に使用している。

 

11.米国『ガードナー・リソーシーズ社』が販売している、唐辛子を濃縮した「デスソース」シリーズのひとつで、特徴としては『ハバネロ』のみを用い、唐辛子エキスは入っていない。ラテンアメリカ向けの商品なので、ラベルはスペイン語に直訳したそのものズバリ、Salsa de la Muerte(=サルサ・デ・ラ・ムエルテ)で表示されている。唐辛子の辛さを示す単位『スコビル値』は約15,000で、シリーズの中では辛くない(沖縄の島唐辛子と同じ)方である。それでもお馴染み『タバスコ』の約6倍は辛い。古雅楽館の「デスソース」は他にも『アフターデスソース』を常備、こちらは約50,000だから辛さは『タバスコ』の20倍(!)。

 

 

 

【写真上左】酸味や旨味もあって、単純な激辛だけに終わらないところが世界中で人気の一因だろう、その名も「死のソース」。右は頻繁(ひんぱん)に使う『ムエルテ』、左が適量(と言ってもほんのわずか)を守らないと、翌朝は確実に悲惨な目に合う『アフターデス』。【写真上右】南イタリア・モリーゼ州のパスタメーカー『ラ・モリサーナ』の『コンキリエ』。同社からは『アビッシーネ(=abissine)』の名で販売されており、イタリア語で猫の品種『アビシニアン』を意味するが、どのような関係があるのかは不明。「耳」の形から?

 

12.conchiglie イタリア語で「貝殻」を意味し、代表的なショートパスタのひとつ。英語圏でも「シェル・パスタ(shell pasta)と呼ばれる。シーフードやトマトソースとの相性が良い。サイズは何種類かあり、小さいものは『コンキリエッテ(=conchigliette)』でスープやサラダに,大きなものは『コンキリオーニ(=conchiglioni)』と区別され、様々な具を詰めて供される。アメリカやメキシコでは『タコス』料理で、折り曲げた『トルティーヤ(ハードタコ)』の代わりに『タコ』を盛り付けたバリエーションがある。

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【トップ写真】古雅楽館の庭には夏の花木『槿(むくげ)』が二本あり、猛暑にもめげず元気に咲き続いている。白花は在来種で底紅(そこべに)の清楚なイメージ。紅花は紫がかったピンクの半八重で、マグノリアと共に苗を通販で購入したが、古雅楽館の庭では最も古い木のひとつ。「植樹」してから40年以上経っても樹勢は衰えない。『槿』は前回紹介した『ヘメロカリス』と同じく『一日花』だが、次々と咲くので夏の間、長く楽しめる。

 

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