【古雅楽館】 インセンス

 

この数年、仙台駅前や一番町など「マチナカ」へ出かける機会が激減した。休日はやるべき事が多すぎて街へ出る時間的余裕がないため、食料品や酒、日用雑貨、インテリア小物はニッパーロク沿いか、あすと大通りの行きつけの店を何軒か廻れば用が足りる。趣味の専門書やレコード、CDはネットオークションで購入するパターンが恒常化してしまった。ただ何らかの事情で「マチナカ」へ出る機会があれば、品物を眺めるだけでも充分に楽しい店が何軒かあって、そこへは必ず立ち寄ることにしている。

 

中央二丁目にあるエスニック専門店『マライカ(仙台店)』もその一つ。東京在住時は都内にある何軒かの店へ良く通っていたが、仙台に帰って来てからも相変わらずご贔屓(ひいき)にしている。ただ「仙台店」の特徴であるネイティブ・アメリカンの通称『インディアン・ジュエリー』や『カレン族』のシルバーアクセサリー、エスニックファッションはあまり興味が湧(わ)かず、生活骨董やマスク、フィギュアも好きなのだがアフリカ物ばかりなのが残念。

 

ここに来たら必ず買い求めるモノは雑貨類、取分け『インセンス』である。『インセンス』は直訳すれば『お香』である、と書けば味も素っ気もない。ニュアンス的には仏壇やお墓の線香ではなく、生活空間を癒(いや)すための演出小物と解釈したい。一時(いっとき)流行ったアジアンリゾートスタイルのインテリアには必要欠くべからざる小道具であったが、それだけで終わらせてしまうには勿体ない。『和』だろうと『カントリー』や『ブロカント』だろうと洋の東西を問わず素敵なインテリアを作り上げるには、こういった小物を如何に使いこなすかが肝要だ。その道の達人は料理のスパイスのように実に上手く活用している。

 

  

 

【写真】古雅楽館ではその日の気分次第で、インセンスを焚く場所を変える。右は座卓に直接置いてシンプルに。切り花は『シュウメイギク』(昨年秋撮影)。左はランチョンマットを市松模様に敷き、つるバラの『アンジェラ(最下段【トップ写真】コメント参照)』と『オルレア・ホワイトレース』を添えて。

 

日本では古来、宮廷や貴族社会で部屋や着物に香を焚(た)き込める風習があり、やがて六種類の香木を組み合わせて楽しむ『香道』が確立した。しかし圧倒的大多数の庶民にとっては縁無き世界なので、今に至るも一般に馴染があるとは到底言い難い。考えてみれば市井(しせい)の生活で「香り」(「匂い」に置き換えても良い)は、意識的に醸(かも)し出す物ではなく結果としてついてくるものだった。どこの家でも共通するのは七輪で焼いた魚、味噌や漬物・干物などの食品、風呂場や台所、囲炉裏(いろり)で燃えている薪(たきぎ)や炭、汲み取り式トイレの強烈な芳香剤、等々の生活臭であり、それらが複雑にミックスした匂いが各家庭毎、微妙に違っていたものだった。

 

現在では生活様式が劇的に変わったことで、大半が日常生活から姿を消してしまい、周囲は無臭となり逆に「香り(匂い)」の貧困生活に陥って「家の中は匂いがしないのが当たり前」になってしまった。そんなことから「香り」を部屋に持ち込むことは仏壇や、蚊取り線香でもない限り(これも電気式が一般的になってしまったが・・・)あり得ない。だからリビングでお香を焚くという行為は未だに奇異の目で見られるのは仕方がないのかもしれない。

 

 

【写真上】こちらはアジアンリゾート風を演出。ダイニングテーブルに置いて、光と影を強調するため、逆光で撮影。

 

『インセンス』が生活の中に最も溶け込んでいるのは東南アジアからインド、ネパールにかけてだろう。宗教的意味合いもそうだが、長年の生活習慣で朝夕の一時(ひととき)室内をお香の煙で浄化するのは必然的な儀式である。従ってこれらの国では、何処でも『インセンス』を売っていて種類も値段も千差万別、家で使うのかお寺へお参りの際持って行くのか異邦人には区別がつかないものもある。

 

日本へ輸入されているのは大部分がインド産で、昔は日本の「お香」と区別して『インド香』と呼んでいた。他にはネパールやチベット・タイが若干、珍しい所ではアメリカもあるがソノ気で探さないと手に入らない。形状は大別して「とんがり帽子」の「コーン型」と「たけひご棒状」の「ステック型」になる。『インド香』と呼ばれた時代は「コーン型」が多く売られていた。お線香を思わせる「ステック型」よりもエキゾチックなスタイルが、それらしさを感じさせたのかもしれない。生地を練って型に押し付けて乾燥させるだけ、簡易な包装と相俟(あいま)って値段もそれなりに安く、手軽に使えて便利だったが質が悪いのは途中で消えてしまったり、燃え尽きる前に燻(いぶ)りだしのような煙がもうもうと出るのが難点だった。燃えかすの処理はあるにしろ、「ステック型」は燃焼が安定しているし、煙を燻(くゆ)らせるときの雰囲気も「いかにも」といった感じなので、今はこちらが主流になってしまった。

 

 

 

【写真上左】東京単身赴任時代から使い続けてきた普及版『インセンス』の山盛り。パッケージは当初、両サイドに見られるように「キャラメル箱」スタイルだったが、いつの間にか六角柱の「筒」が主流になってしまった。これだと「フタ」がきちんと閉まらず、半開きのだらしない恰好になってしまうので、「はがせるタックシール」を貼っている。右から三番目の青いパッケージが、人気ナンバーワンの『ヒマラヤ』(インドBIC社)。【写真上右】現在古雅楽館が主に使用している「オウラショカ=AUROSHIKHA」の「ネイチャーガーデン」シリーズ。天然香料が添加されたマイルドな香りがお気に入り。パッケージデザインも垢抜けていて、「押し花」が貼ってあるのもGood! ケースは大昔、有楽町「国際フォーラム」広場の『大江戸骨董市』で買った「アンティーク風」木箱で、全部きっちりと入る。

 

『インセンス』の成分は古来から伝わる芳香材料を単独、或いは混合して「粘結材」と共に煉って生地にするのだが、純粋に天然のものを使用すると、とんでもなく高くつくので、実際は化学合成した香料をブレンドしている。合成香料オンリーが一番安く入手も容易だが、スティックそのままと火をつけた煙の香りは全く異なるというか、「エキゾチック」を超えて強烈に臭う(くさい)ものがあり、当たり外れが大きい。多少高くても「天然香料使用(=含む)」と明記されているのがお薦め。

 

『インセンス』を焚く季節は、春から秋にかけてがよく似合う。冬だと煙が室内に立ち込めるし、匂いが過剰でそれこそ「鼻につく」。古雅楽館では朝、リビングの窓を開けても寒くなくなった頃を目安に使い初める。特に最近は朝から暑い日が続くので、気分を高める意味でも有効だ。『インセンス』の煙が『フラクタル』の状態で消えゆく様を見ていると、その匂いと共に本当に気持ちが安らぎ「ヒーリング効果」満点。

 

書き忘れたが、『インセンス』を焚くときに使用する「香炉」は、『インセンス・バーナー』と呼び、素っ気ない素焼きの皿から真鍮(しんちゅう)製の凝ったデザインまで、多種類の商品が販売されている。ただ、「スティック」用のバーナーは殆どが、落ちた灰を受ける「皿」の部分がまっ平らな板状で、灰が飛び散りやすい。『インセンス』初心者の頃はこれが悩みで、ネット通販やオークションで「これは」というモノを探したものの、なかなか見つからない。そうこうしているうちに、これも行きつけの店である仙台駅前PARCO地下の「ナチュラル・キッチン」で、長皿と(多分)手作り「インテリア小物」の材料と思(おぼ)しき、小さな陶器製の小鳥を見つけた。見た途端、瞬時に「これは使える」とアタマに💡が灯りましたね。

 

 

 

【写真上左】自作の『インセンス・バーナー』。とは言っても本文に述べた通り、単にくっつけただけのインスタント品だが、市販の物より使い手がある。【写真上右】スティックホルダー部は小鳥(ヒヨコ?)の背中に埋め込まれた円形の金輪に挿すだけ。長年の使用で小鳥の頭が焦げているのはご愛敬(あいきょう)。

 

早速購入、持ち帰るや否や(強力)両面テープで小鳥を皿の端にくっつけてみた。皿のサイズが『インセンス』のそれにぴったりなのと、小鳥の背中についている金輪(かなわ)がスティックを差すのにお誂え(おあつらえ)向きで、試しに焚いてみるとスティックがグラグラせず、極めて具合がヨロシイ。これで材料費が216円だから、コストパフォーマンスどころの話ではない。ますますもって「ナチュラル・キッチン」ファンになりました。シンプルな「アイディア手作り品」ということもあって愛着も湧き、程良い使用感も出てきてこれからも使い続けるつもりでいる。

 

 

【写真上】『インセンス・バーナー』の置き場所は、やはりこのようなエスニック空間が似合う。【古雅楽館】<一斗枡>にも掲載した、レトロな木枠ガラス戸棚の上に他の小物と一緒に並べている。

 

とは異なる一味違ったインテリアを創造する、その一助として『インセンス』はダークホース的な存在だ。使いこなしはハードルが高いけど、上手く行けばワンランク上の世界が開けるので、挑戦し甲斐のあるアイテムである。

 

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1.仙台市と山形市を結ぶ、「旧笹谷街道」沿いの国道286号線をもじって太白区民が名付けた愛称。仙台市中心部から『秋保温泉』、東北自動車道『仙台南IC』へのアクセスとして重要な路線である。

 

2.タイ北西部からミャンマー東部にかけ居住する山岳民族。タイ少数民族の中では人口が最大規模。森の精霊を敬い、焼畑農業と象の使役で暮らす生活だったが、現在は銀細工と「エレファントキャンプ」の観光収入が生活の糧に変わっている。象を調教できるのは唯一カレン族だけである。シルバーアクセサリーは全て手作業なので加工精度を上げるため『銀純度』は95~97%と極めて質が高い。

 

3.昔の人々が普段の生活で使用した道具や食器、衣類等の「日用品」。「美術品」と呼ばれるお宝と異なり、普段使いが出来るものが多く、値段も手頃なので「骨董入門」に向いている。ポピュラーなのは「食器」や「衣類」だが、特化した道具類は『古民具』として希少価値も加わり(通常の)骨董と線引きが難しいものもある。以前古雅楽館で写真を公開した『座繰(ざぐ)り』や『糸車』も、欠損のない美品は最近入手困難となり、相応の値段になってしまった。

 

4.Brocante   フランス語で「古道具」を意味するが、ニュアンス的には『アンティーク(= Antique)』よりも新しく、一見何の価値もないような「ガラクタや家具」を指す。ただ、英語でのジャンク(=Junk)ほど「キツイ」イメージではない。他人から見れば「何で?」と訝(いぶか)しげに思われるモノでも、本人にとってはこよなく愛する品物が『ブロカント』。例をあげると、調味料入れだったガラスの小瓶やドロップのブリキ缶、錆(さびが浮いているワイヤー製の牛乳瓶入れバスケット、ガタピシの子供用三輪車、等々。

 

5.昔はどこの家でも作っていた「糠(ぬか)漬け」は、今どのくらいの普及率なのだろう。アパート、マンション暮らしを考慮すると多分10%を切っているのではないか?

 

6.古代オリエント・エジプトから盛んに用いられて来ただけあって種類は極めて多い。植物性では『白檀(びゃくだん)<英名:サンダルウッド=Sandalwood>』、沈丁花の仲間である樹木の脂を乾燥させた『沈香(じんこう)』、「沈香」でも最上級の品質『伽羅(きゃら)』が、動物性では「ジャコウジカ」の分泌物を乾燥させた『麝香(じゃこう)<英名:ムスク=Musk>』、「マッコウクジラ」の結石である『龍涎香(りゅうぜんこう)<英名:アンバーグリス=Ambergrisが有名で高価。特に『龍涎香』は捕鯨禁止により、幻の香料になってしまい、人工合成の化合物で代用せざるを得なくなった。他にポピュラーな材料としては、『桂皮(けいひ)<英名:シナモン=Cinnamon>』、『八角(はっかく)<英名:スターアニス=Star Anise』、『ラベンダー』、『セージ』等、主に植物性の精油が用いられている。

 

7.最近のニュースで、「お香の煙はタバコの煙よりも有毒だ」と報道されたことがあるが、「学説」は研究者の強引な『我田引水』で、かなり怪しい。ただ、本文にもあるように、安い製品は合成化合物が多いだけ『ホルムアルデヒド』や『ベンゼン』等を(微量ながら)含んでいる可能性があるので、やはり天然香料(が多い)物を求めたいし、換気もしっかりとするのが良いと思う。

 

8.「雲」や「海岸線」、「川の流れ」など、自然界には複雑な図形が存在する。いくら拡大しても複雑さは変わらない図形が『フラクタル』である。拡大した一部の図形は、全体図形の一部分と似た形になる性質があり、『自己相似性』と呼ぶ。樹木の枝分かれは小枝の枝分かれ、葉脈とそっくりなのがその一例。『自己相似性』を持つ幾何学模様を『フラクタル図形』という。人工的に『フラクタル図形』を作成するのはこれまで限界を生じたが、コンピューターの発達により極めて精度を高くした表現が可能になった。

 

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【トップ写真】遅ればせながら、先月末に撮影した古雅楽館カーポート入口のつるバラ。手前の赤色は日本でも古くから作られてきた『ブレーズ』(作出:1932年 米国)、強健で初心者向き。右手の白(実際は薄いピンク)は日本で1989年、作出された『夢乙女(ゆめおとめ)』で、可憐な姿が女性に人気。奥のピンクは「つるバラ愛好家の庭には必ずある」と言われるほど有名な人気品種『アンジェラ』。古雅楽館の庭は、強健で花付きの良いつるバラ8品種までが限界。

 

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